鈴木淳夫は自身の作品を「Carved Painting (彫る絵画)」と名付けた。
木のパネルにアクリル絵の具を何層か塗り、その上から彫刻刀で彫ることに由来している。彫ることと美術作品の関係は、日本の芸術の発展においてとても重要な関係であった。日本の芸術を代表する工芸も浮世絵も、彫るという要素は欠くことができない。こうした作品などで、彫ることは完成にいたるまでの過程の一つである。しかし、鈴木の作品は色を塗った後、彫ることにより完成する。
鈴木の絵画は彫刻とも版とも異なる。描き足すのではなく、削り出すことで成立する絵画は、絵画の新境地を切り開いていく。彫る点の一つ一つには、鈴木の日々の心情や出来事が込められている。しかし、このような心の動きは作品全体の色彩や彫り方、モチーフに影響させていない。
無数の点は、自分を作り上げている細胞であり、自分自身を表す。細胞は集まることによって一つの生物を作っている。鈴木は、細胞のような目に見えないが多くの情報が詰まったもので作品を形作る。これに対し彫り出された一片は、彼の手から生まれ、そこから離れていく。それは決して不要な一片でなく、自と他を比較し、改めて互いの存在を確認するための貴重な要素である。